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膝を抱えて、痛みに歪む前田の顔を見下ろしながら…、少年山崎は自分の無力を痛いほどに知った。爆撃機に蹂躙されゆく街を河原の護岸の上で呆気にとられ見つめたあのとき、そしてブルーシートの上へ並べられた夥しい数の遺体と共に横たわる物言わぬ祖母に縋ったあのとき知った無力を、今また肌身で思い知った。
ああ。少しばかり喧嘩が強いくらいのことで、自分はなんと自信満々にこれまでの日々を浪費してきたことだろう。そんなものは今やなんの役にも立ちはしない。
しかも、その薄っぺらな自信さえ、つい先刻、この重傷の男に軽く弾き飛ばされたのだ。
ずたぼろになった山崎の精神をこのとき支えていたものは、偶然に出会った素性もわからぬこの男を、名さえ聞いたこともない故郷へと、なんとしても送り届けねばならないという、降って湧いたような使命だった。
傍目には俄かに理解しがたい義務感だ。何が彼をそこまでさせたか…、あるいは心がまるきりカラになりさえしなければ、その中身はとにかく何でも良かったのだろう。

生死の境を彷徨う前田とはまた違ったところにあるぎりぎりの崖っぷちで戦いながら山崎は、自分の肩を抱くようにして、前田に貰った軍刀を強く握った。
前田曰く、大量生産された、なんの値打ちもない刀。
その刀がいま、自らをそう酷評した先の主になりかわり…、怯え震える少年の心を、強く、しっかりと抱きとめた。


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