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真昼の日射に眠る繁華街を包む陽炎のなか、彼は川辺を目指して自転車を軽快に飛ばしていた。
やがて下水の臭気がしなくなり、乾いたアスファルトのにおいが徐々に夏草の香りに変わると、ぱっと視界が開け、日差しが川面に輝いている。
こういう暑すぎる日には、河川敷の木陰のベンチが彼の唯一の憩いの場だった。街はどこも空気が澱んでいる、かといって家に帰れば母の店を手伝って、かつ弟妹と祖母の世話を焼かねばならない。
勿論、今日も、使いが済んだらまっすぐ帰れと、耳にタコができるほど言われていたのだ。しかし彼は母に対し反抗的でないにしろ、この頃はとりたてて従順という訳でもなかった。
そして、自分が体を張って家族の安全と財産とを守っているという自負もあった。それに十代半ばという年頃も手伝って、少し、鼻っ柱が高くなっていたのだ。

――はじめっから真正直にやることない、マジメにやるんは一遍怒られてからでええねん。夜になったら、忙しなるし。

自分、あるいはお天道様に対する言い訳のようなものを頭の中に思い浮かべながら、左手で巧みに自転車を操り、右手には齧りかけのアイスキャンデー。


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