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前田にとってみれば…、山崎のこの反応はやや意外なものだった。いつものとおり軽口を叩くか、あっさりと、そら勿論僕自身のことではあれへんでしょうよ、などと早口に言い切るだろうと思っていたのだ。
然るに…、予想に反し、山崎はなかなかその先を喋らない。彼にしては珍しく、言葉を選んでいるように見えた。

「なんじゃ。ほれ話してみい」

山崎の普段あまり見せない表情に、前田はまず戸惑いを、次に焦りを感じた。まずいことを言ったと気づいたのだ。
「他人事」という言葉に山崎は敏感に反応した、少なくともそのように見えた。…迂闊であった。拾ってきた子供に対し、冗談でも他人などとは言ってはならなかったのだ。よく肝に銘じていたはずだが、長く共有した生活のなかで意識は希薄になっていた。
その焦りを振り払うように、前田は強い口調で先を促した。失策を取り戻そうとして傲慢な態度をとり、結果、相手を萎縮させてしまった。

「僕は、」

対する山崎も、長いつきあいであるから、自分の師匠がきわめて不器用な表現しかできないことをよく知っている。

「僕は、ナーを、友達?いやちゃうな、兄弟?ちゅーのもなんや、ちゃいますねんけど、とにかく、そんな、」

ゆえに、それでも言葉を繋ごうとしたが…、出てきたのはあまりにも未整理な言葉の断片だけだった。山崎はお喋りだが雄弁ではない。そもそも、師に対してみずから思うところをまともに述べたことは過去にほとんどなかった。
こんなことなら師匠の失言も軽く笑って流せばよかったと、山崎自身もそう思ったが、口に出しかけた言葉を撤回することは最早不可能だ。師は次の言葉を待っている。

思い起こせば…、修行時代から、師に相対して膝をつき意見するようなことは、ほとんど梵しかやっていなかった。そして彼は生意気であったため、よく横面を張られていた。
梵がいなくなってからは、必要なことは永川が述べていた。永川は…、内向的なくせに喋るのはうまい。本ばかり読んでいたからだろう。このときに限らず山崎は彼の話術を羨ましいと思っていた、だが山崎は決定的に読書が苦手であった。
よって永川を見習うことはしないまま、漫画ばかりを読み今日までダラリとやってきた。


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