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☆ ☆ ☆

『広島に入りました。お好み焼きは経費で落ちますか』

井端は携帯電話の液晶画面を数秒間見つめたのち、無言でそれを机に置いた。と、同時に、執務室のドアをノックする音が聞こえた。

「荒木です。入りますよ」
「何だ」
「そろそろお昼ですけども、定食はどっちにするんですか」
「俺は後にするわ」

手元の書類と地図から目を離そうとしない井端を見て、荒木は一歩前へ進み出た。

「そうじゃなくて、山本さんに食事頼まれてたでしょう」
「ああ、そうだな。手配しといてくれ」
「だめですよ。中佐のオススメのほうをお願いしますって言われてたじゃないですか」
「そうか…、そうだな。今日は肉は何だっけ」
「えーと、グランパス汁ですね」

荒木はコルクボードに留められた月間献立表を読み上げた。グランパスとは名古屋近海に棲む小型のクジラの一種で、サッカーの批評をするなどの高い知能をもつことから、近年捕獲への批判が高まっている生き物だ。…よってこれは、人を選ぶメニューであると言える。

「魚は」
「ウーパールーパーの竜田揚ですね」
「…あれって魚なの?」
「さあ。どうでしょう」

荒木には選択の義務がないから気楽なものだ。

「それで、どっちをおすすめするんです」
「……」

お勧めのほうをお願いしますと言われてウーパールーパーを持っていくのは避けたいと井端は考えた。そんなことをしたら…、まるで、これがお勧めですとでも言わんばかりではないか。


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