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蔵本はうんざりと井端の顔に貼りついたブス色の隈を思い出した。井端が目の下を黒くすることはそれ自体さほど珍しくないが、今日ほどひどい顔色を蔵本は見たことがない。

「けどなー、」

アテもなく…、

いや、アテはある。
森野自身はともかく、ドアラは目立つ。そのうえで昨日の日中に限定するなら、見たか見ていないか程度の情報が得られるかもしれない。あわよくば大まかな行き先も。

だが、ドアラというキーワードを安易に出すことにはリスクもある。蔵本は無名の一市民ではないからだ。
彼が広島に来ていると知る者はない。よって、黙って俯いていればおそらく正体がバレることはない。しかしこの顔にこのキーワードが重なれば、いくら広島では有名でないと言っても、いずれ感づく者が出てくるに違いない。
ドアラ漫才の蔵本がドアラ連れを探しているということが一度公共の場に知れてしまったら、その情報をコントロールする術はない。
後は蔵本の経歴を遡れば森野の名は遠からず出てくる、そして、わざわざ遡らなくとも…、関係者からすれば一目瞭然だ。
それが名古屋に聞こえてしまえば全てそれまで。この任務は失敗である。

「情報社会ってねー、便利4割面倒6割よね」

特に、人の多い市街地での行動はよくよく気をつけなければならない。
さしあたり…、

「…戻ってメシでも食うか」

すえた臭いのする隘路に背を向け、彼は妙にキチンと整備された駅前へと戻り、そして粉とソースの匂いのするほうへと引き寄せられていった。


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