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「確かに、あなたがたは今は名古屋に手出しできない。それはわかっています。我々の報復を手伝ってもらいたい」
「グライシンガーですか」
「いえ。あれはもう過ぎたことですから」
大沼の問いに対しガイエルは曖昧な笑顔を浮かべてそう言ったが、実際にはそんな理由ではない。分厚い装甲を誇るグライシンガーに対抗するには装備の充実した軍隊が不可欠だ。無論、口には出さないが…、解放戦線などが出る幕ではない。
「というと」
「仰られたとおり、わかりやすく申しましょう。正確に申しますなら報復は目的ではありません。報復と称してこの機に敵の本拠を叩き、戦力を、できることなら戦意を削ぎたい」
「…できますか?」
「やります。プランはある。これなら聞いていただけるでしょう。奇襲はお得意のはず」
今はいくらか手すきとはいえ、なお圧倒的な物量を誇る文京軍の本拠を叩いて、戦意を削ぐほどの損失を与える。それは随分と難しい注文のように思われたが…、智将と称されるガイエルが自信を持って言うのだから、それこそ、いくらかの勝算はあるのだろう。
果たしてどんな計画を持っているのか。大沼ははやる気持ちを少し抑えようと眉間に皺を寄せ、考え込むような仕草をして口元を撫でた。…その間、自分の後姿をじっと睨むように見つめる視線には一切の注意が払われなかった。
背後に向ける注意など、はじめからありはしないのだ。大沼はいつもその背に絶対的な信頼だけを置いている。
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