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「…なるほど」
「私は外交の器を持ちませんので。あなたの期待に沿うだけの力がなく申し訳ない」
…謙遜はするが否定はしない。その大沼の反応を見て、ガイエルは碧眼の奥で考えを巡らした。
想像もつかないというのはこの場合、興味がないというのと同義である。解放戦線は関東から出ない。つまりは、同盟は一時的なものであり、今後彼らが聖都の抑止力の一翼を担うかどうかは別の話だということだ。
この回答は聖都の予想した範囲を外れていなかったが、一番に望んでいたものではなかった。
「もっと近いところの話をしろと。もっともだ。これは失礼」
「いえ、とんでもない。ただ、お聞きしたいのは、もっとわかりやすい…、
そうですね、今、さしあたって何をすべきかということです。名古屋が我々にとっても生命線であるということはよくわかりました。しかし、国家勢力でもない我々が、名古屋軍の要請もなしに援護を買って出ることはできません。仮に聖都の命令であっても」
「…仰るとおりです」
大沼はガイエルがあらかじめ思っていたよりも、幾分頭のいい相手だった。聖都との国交を持つことは大沼にとっては宿願のはずだが、それを目の前にして冷静さを失わない。
…外交の器を持たないなどと口先では慇懃なことを言っているが、なかなかの狸だ。さすがは武装集団で総帥と呼ばれ慕われ、度重なる干渉を寄せ付けず十年も体制を保ち続けているだけはあるということか……、
しかし、それとて想定を外れたわけではない。ならば、その場合のために用意してきた条件を提示するまでのことだ。
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