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「実際、彼がいなければ今の文京軍はないでしょう。大雑把に言えば、貯めた金を死ぬ前に使い切りたいという発想に少し似ている」
「そんな、しかし」

それとは次元が違う、と言いかけた大沼を制しガイエルは続ける。

「もちろん聖都としては到底容認できた話ではありません。ですが、名古屋さえ落とせれば、実現性はかなり上がると思います。その勢いを駆って遠く福岡や仙台札幌まで、彼の天寿が尽きるよりも前に制圧できるかはわかりませんが…、
 もはや時間の問題と思えるところまでは、数年あれば行き着くでしょう。繰り返しになりますが、名古屋さえ落とせればね。そして現実にそうなってしまったら、我々にチャンスはなくなります」
「…文京の軍事力は、既に、そこまで強大であると」
「いえ、ですから、名古屋が落ちたら、という話をしているのです。不敬を承知で申します、今の聖都には関東の諸国をまとめる力もない。
 まして、名古屋の向こうの西宮や神戸と素早く連携を取ることは難しいでしょう。…いや不可能だ。我々は彼らの思惑すら掴んでいない」
「まあ、少し待ってください」

次第に熱を帯びるガイエルの言葉を大沼は黙って聞いていたが、やがて突然にそれを遮った。

「西にある諸国が聖都に対しどういう態度をとるかというのは、私には想像もつかない話です。先のことは聖都がお考えになって、好きになさればよろしい」

一見投げやりな物言いにガイエルは虚を突かれたような顔をしたが、次の瞬間には大沼の意図を理解した。
今回用意された報酬は、聖都によって所沢が独立政府として認められるということだ。そのために所沢解放戦線は聖都に協力をする。この取引自体は既に成立している、しかし。


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