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いっぽう、ドアの閉じられた応接室の中では。
「粗茶ですが」
「ご丁寧にどうも」
総帥大沼がみずから急須をとり、客と自分に茶を入れていた。しかし、そこに置かれた茶碗も菓子も二人分で、帆足は数に入っていない。
なぜなら彼はその射殺すような目つきを崩すことなく、腰に収めた剣の柄すら離さずに、立ったまま大沼の脇に控えているからだ。つまりは席に着かないのだから、茶を入れても意味がない。
「もしや狭山茶ですか」
「おお、ご存知で」
ガイエルは所沢の特産と名高い茶の名を口にした。それに大沼は目を細める。
「もちろん。今は関東にはほとんど流通しないから、聖都では貴重な品です」
「近くその問題が解消できると期待していますよ」
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