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質問の意味がわからない、という様子で許は首を傾げた。
「あっ、すみません。いえ、許者は昔から幹部としてここにいますよね」
「そね、ま、昔は人少なかったから、幹部なんてなかったけどね」
「そのころからあの人は、粗暴で、短気で、誰にでも恐れられていたんでしょうか」
「んー」
意を決して、岸は許に質問をぶつけた。これは本当なら大沼に直接聞きたいところだが、そんなことはとてもできない。ならば…、話しやすいところから話を聞きたかった。
それに対し許は、顎に手をやって少し考え込んだ。眼鏡の向こうの視線はどこを見ているのかわからない。
許のもつ能力は、近くで人の目をしばらく見つめることで、次にまばたきをするまでの間だけ相手の随意筋を硬直させるというものだ。かつての帆足もこれを知らずに不覚をとり、その身柄を拘束された。
許が普段から室内でも色眼鏡をかけているのは、この能力を封印するためだ。彼の能力は、本人の意思にかかわらず人の目を見ると発動してしまうので…、それでは日常生活を送るのにも不便が多すぎる。
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