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ねぎらいの言葉に岸が姿勢を正して返事をするのを見届けると、大沼は笑顔でうなずいて、部屋のドアをゆっくりと閉めた。
…廊下には岸ひとりが残された。無事に任を終えほっとすると同時に、岸はすこし残念な気持ちがした、これから中で行われる会談には、自分は同席させて貰えないのだ。
中では大沼のほかに誰も待っていないようだったから、長田や小野寺でさえそこには呼ばれていないのであり、まして幹部の末席に上がりたての自分が同席できるはずもないことは、当然と言えば当然、自身でもわかっていたことなのだが…。

ひとつ溜息をついて、岸は応接室の前から立ち去った。前夜衝撃的な体験をし、かつ、帆足と語り合う貴重な時間を過ごしたばかりの岸は、なんとも言いがたい、帆足と離れがたいような気分になっていた。
これを尊敬と言うのだろうと彼は思った、しかし、その尊敬する帆足に離れずつき従うには、残念ながら身分が違いすぎた。
昨日、今日と、総帥のはからいで、幸運にも任を同じくすることができただけだ。その存在はまだ遠い。
現実の自分はまだ幹部になったという事実さえもどこかで受け止めきれていないことを、岸は普段から自覚していた。廊下ですれ違った兵士が立ち止まり、確かにこの自分に一礼していく、それにすらまだ慣れないのだ。
彼は今一度確かめるように、腰の短剣の柄を触った。大きな玉石のつめたい感触と、細かく施された金属装飾のざらりとした手触りが、そのおぼつかない心を少し勇気づけた。


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