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「技術でかなわないなら物量を投入して押すしかないさ。俺には決定権ないから、ちょっと上に報告してくる、ここは任せた」
「あ、はい」
「このぶんなら多分そんなに急ぎやしないけど。一応早く言っといたほうがいいだろう。できるだけ早く戻る、じゃよろしく」
そう言い残して清水は部屋を出ていった。後には低い唸り声をあげるいくつもの大型コンピューターと共に、亀井ひとりが残された。
…決定権がないと自分で言っていたとおり、清水は階級的な地位はさほど高くないが、文京軍ではかなりのベテランだ。それなりの実績があり、過去には顕彰を受けたこともある。
階級が高くないのは時の運と巡り合わせが悪かったとしか言いようがないが、本人はそれについて、仮に酒に酔っていたとしても、特に恨み言を口にすることはない。
言われたところで、言われたことを淡々とこなす。仁志とは対照的に、清水はそういう男なのだ。
そして、地位が高くないことを言い訳に、清水はあまり部下を持っていない。衆目と人望を集めることの面倒くささが、仁志を見てよくわかっていたからで…、
彼の直属の部下は、亀井を入れても、片手の指で足りるほどしかいない。
「清水隆行中尉です。入室よろしいでしょうか」
廊下を進んだ先、重厚なつくりのドアをノックしながら清水は言った。
「入りなさい」
「失礼します」
ドアノブを捻って静かに引き、腰を折って一礼すると、清水は部屋の中央、原の執務机の前へと進み、間を置かずに口を開いた。
「名古屋東戦線が押し戻されてきました。状況から見て、おそらく、撃墜王山本が投入されてきたものと考えます」
「ふむ。…そうか。奴もまだまだ達者なんだな」
原はほんの少しの苦笑いを浮かべてそう言った。
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