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「そして、それ以上のことは今は言えない、理由はさっき仁志に言ったとおりだ。みな気になることだろうが、どうか我慢して欲しい。君らにいま聞きたいのは、それが可能かどうか。
もちろん、なんのデータもなしにいきなり答えろとは言わない。いまから少し詳細な説明をする、ひととおり聞いたうえで存分に議論してほしい」
「では理由はお尋ねしません。他の質問は、いいですか」
「何でも。答えられる範囲なら」
次に声を発したのは、三浦の隣に座っていた加藤武治だ。彼は思慮深く、この皆が良く喋る横浜軍の中では比較的存在感が薄いが、
そのぶん頭脳的には頼りになる人物だ。同僚からは先生と呼ばれている。
「単刀直入にお聞きします。あれは、ぶっ壊してもいいモノなんでしょうか」
超魔神グライシンガー。聖都神宮の何千年とも言われる歴史の中で、古代にあったとかなかったとか言われる高等文明の遺産と言われる機動兵器だ。聖都から聞こえてくる噂の域を出ないが、一説には現代科学の理解を超えているとも言われる。
つまりは、単なる軍事力としてのみならず、科学的、歴史的価値も相当に持っていると思われる代物だ。それを瓦礫に変えようというのか。
「聖都があれを取り戻せる見込みが薄い以上、文京軍の所持する兵器と割り切って壊すしかなかろう。そうでなければ近い将来、我ら横浜の立場もそれなりに悪くなる」
名古屋が仮に東側の一部でも占領されると、横浜は陸上に接する国境をすべて文京に包囲されることになる。そうなれば、文京はいつでも侵略に乗り出してくることだろう。
そもそもの戦力差に加え、横浜の陸軍力が比較的弱いことは、周知の事実だ。
「…長官がそうおっしゃるのなら、我々としては前向きに検討します。皆どう思う」
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