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「ま、考えつく限りの万全の体制ですよね。俺にも実際何が起こったのかわかりません。ただわかってるのは、出かけていって間もなくしてなぜか梅ちゃんがピロられたと、それだけ。
そういう話しか聞こえてこないんです。そもそも本人に聞いたわけじゃないし…、あの事故自体について俺の知ってるのはこのくらいで」
「本人に聞いたわけじゃないというのは」
「ああ。俺ねスラィリー業界なんです、まぁ、小っさい会社だからあいつらみたいな大物ハンターと契約してたりしないし、それ以前に俺もただの事務員ですけど。
それでも梅津がやられたなんて話はその日のうちに聞こえてきますよ。しばらくはその話でもちきりでした。何が起きたのか誰も理解できないから。
常識的に、あの3人で猟に出て、なにか事故が起こること自体がありえないんですよ。
無理に解釈しようとするなら、カツオとかマグロとか、なんでもそうですけど、初物はバカみたいな値段がつくんでね。功を焦ったのかなと…、まあ、ウワサとしては、そういう感じに収まりました」
「ふむ…、」
「ただ、どこまで本当だかわからないすけど、直前まで梅ちゃんは昌樹と一緒に行動してて、昌樹が目を離した3分くらいのスキに梅ちゃんは既にやられてたって話もあってね。それでミッキーの吼える声で気づいたと、んなもんで第一発見者は犬だから、具体的に何が起こったのか当事者もわからないみたいなんですよね。
そもそも梅ちゃんがやられるってことだけでも信じられないのに、やったスラィリーを仕留めるところか、ナーと昌樹がガン首揃えてですよ、後姿も捉えられなかったらしいから。
そんなこと本当にあるのかなーと思いますけど…、直接聞くのもね、あの人たち面倒くさいから正直あまり関わりたくないし」
「面倒くさいとか、はっきり言わないでよ」
「ああ悪かったね。いや昌樹は本来いいやつですよ?」
貴哉に咎められ、東出は林についてだけ軽いフォローを入れつつ、いかにも適当な笑顔をつくって口角を少し上げた。しかし貴哉もそれについて追及はしない。
人を面倒くさいと言うなとは言いつつ、このあたりの人間関係も相当に面倒くさいからなのだろう。
「ただね、梅ちゃんがやられたのが相当ショックらしくて、あと間もなくして犬も死んじゃったしね、ずっとあんな状態なんですわ、もうね、見るからに魂半分て感じでしょ」
「はあ…」
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