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勢いで思わず大声は出したものの、帆足の言うことはもっともだと、このとき大沼にもわかっていた。しかし大沼にも意地がある。わざわざ迎えにきておいて、そして見つけ出しておきながら…、
「置いてくなんてできるか!ここで見捨てたら、お前を二度捨てたことになる。戻らないよりも後悔する!」
「……」
時間にして数秒、この意地のぶつかり合いは、大沼に軍配が上がった。言おうとしていたことを先手で封じられ、帆足は黙って大沼の背に乗った。もはや二度と置いていけなどと無粋は…、いや。
「俺が先に死んだら、死体は置いていけよッ」
「うるさい、多分気づかない、頭を低くしろ」
大沼は再び走り出した。そもそも、さほど長く走れそうな風貌をしていない大沼だが、今は文字通りの火事場の力だ。時折危ない足取りになりつつ、炎を突っ切り、疾走した…、やがて。
「…出口だ!」
必死に走る大沼が気づくよりも早く、帆足が前方を指した、
「あちッ」
「当たり前だ、手を出すなって!」
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