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木村にその猶予はなかった。ピロピロという恐ろしい声がしたと同時に、木村はスラィリーの太い腕で横薙ぎの猛烈な一撃を食らい、山の斜面を数メートルほども下へと吹き飛ばされた!
そして、その一撃をかわしたとはいえ、岸本もまったく危機を脱してはいなかった、マスターを肩に乗せた巨大なスラィリーは目の前だ。
幼少の折、そして2年前、二度の爆撃を奇跡的に逃れて生き延びた岸本も、この時ばかりは死を覚悟した…、
…しかし…、
スラィリーはなぜか両腕を下へと垂らし、そのままピタリと動きを止めた。鼻息荒く、ピロロと鼻を鳴らしている、興奮しているのには間違いない。
だが…、少なくともそこまでの数秒の間、スラィリーは岸本に襲い掛かっては来なかった。どういうことだ。どういうことかはわからないが、来ないのならば…、逃げるしかない!
飛び退くようにして岸本は走り出し、脇目もふらずに木村のもとへと駆け寄った。
「昇吾さん!昇吾さんッ、わかりますか!?」
叫びながら頬を何度か叩くが、反応がない。頭を打ったのか。意識を失っているようだ。鋭い爪で殴られ、腹からの出血がひどい。この人を背負ってこの道なき道を下れるか…、
いや、もしかすると肋骨を折っているかもしれない。もしそうならヘタに動かしては、しかしここに置いて行くのも………。
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