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また少し風が吹き、辺りの木々を、ざあ…と揺らした。彼らは引き続き無言のまま監視にあたっていた…、こういう視界のあまり利かない場所では、物音にも充分に注意を払わなければならない。
これだけ鬱蒼とした森の中で、たとえばスラィリーのような大きなものが近づけば必ず音が出る。それを聞き逃さないように、ということが部隊全員にあらかじめ通達されている。
そのまま、何事もなく20分余りが過ぎた。辺りは相変わらず静まり返っている、時折遠くで鳥の鳴く声がする。
木村はもうすぐ交代の時間だ。次に来るのは誰だろうか…、そんなことを考えつつ、岸本は軽く首を回しながら天を仰いだ。…そのときだった。
木漏れ日の向こう、岸本の視界に、何か黒いものが捉えられた。それが何であるかは、逆光、かつ生い茂った木の葉に遮られて、すぐには判別がつかなかった、しかしそれは猛スピードで…、一直線に落下してきている!
「…あれは」
「ん、どうした」
「昇吾さん!あれっ!!」
…天を指さし、それだけ叫ぶのが精一杯だった。岸本が気づいてから、その落下物が木々の枝をへし折り、そして二人に襲い掛かるまで約2秒。
その2秒の過ぎる間際、岸本はようやく、それが何だか認識した。スラィリーだ。そして、首には人間が跨っている…!!
一瞬早く気づいた岸本は、元々反射神経に優れていたこともあって…、間一髪、身体をひねって飛び退くことができた。しかし…、
「うわっ…、」
「昇吾さんッ!」
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