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「過去11回についての報告書をすべて精査して、マスター出現の方角、撤収までにかかっているおよその時間、そして被害状況、これらについての傾向を探した」
「あるのか、傾向なんて」
「あるさ。とはいっても、大したことじゃない。あんたも気づいてるはずだ、経験的にね」
幹英はアレックスの前へズイと進み出ると、その顔をキッと見上げた。
「まず一つには…、彼は深追いをしてこない。我々が撤収に入るのを見届ければ、それ以上は追ってこないんだ」
「それは当然のことだ。スラィリーマスターは山からは出てこない。常識だ」
「常識と言って片付けるのは簡単だ、だがそこに理由があるかもしれない。そして次には…、彼は最初の一撃めを人間に当てない」
「……」
幹英の言葉に、アレックスはふと片手を顎にあてて考え込んだ、そしてゆっくりと口を開いた。
「…確かに」
「知っていると思うが、彼、梵英心は本来あの梵倉寺の跡継ぎだ。小さい頃から、陰では鬼子と噂されるほどの超能力を持っていたらしい。今の彼が本気になれば、地形をちょっと変えるくらいのことは簡単だろう。
それが、本来最も命中させられる確率が高いはずの、一撃めの不意打ちを、我々の部隊に直撃させたことが一度もないんだ。
彼はいつも土地勘を生かして、かならず我々より高い位置から襲ってくるのにも関わらずだ、これは不自然と考えるべきじゃないか」
畳み掛けるように幹英は喋った。彼のこの場の仕事はあくまで調査結果の説明であり、アレックスの説得ではなかったはずだが…、生来の性格に加え、
色々に入り混じった様々な思いが知らずのうちにそうさせるのだろう。アレックスは幹英の早口な言葉をもう一度頭の中で整理し、それから、ゆっくりとうなずいた。
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