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「彼があの風変わりな杖を叩きつけるようにひと振りすれば…、たちまち地面が抉れて岩も浮き上がるほどだ。手っ取り早く部隊を潰すつもりなら、それをまず俺に当てるはずだな…」
「そういうことだ」
「それをしないということは」
「…殺意がない」
「なるほど…、そう、だな…」
アレックスは一定の理解を示しつつも、しかし、まだ胸中の半分以上は懐疑的だった。幹英の主張に矛盾は感じないが…、どうにも、初めにまず結論ありきで、そこから導かれた理由を聞かされているような気分だ。
これまでの行動からは明確な殺意が認められない。それは幹英の主張するとおり、事実と認識していいだろう。しかしそのこととは別に、彼はこの数年間で、両手の指で足りないほどの殺人を犯していることも事実なのだ。
「まあ、急に納得しろと言われても無理な話だろう、アレックス。君の部隊からは怪我人も出していることだしな」
考え込むアレックスに、ブラウンが横から声をかける。
「しかし、今はチャンスだ。チャンスを引き寄せるためには、どうしても三次に基地が必要なんだ」
力強くそう言われ、アレックスは鼻から息を長く吐いた。当初からわかっていたことだが、結局この話はここに帰結する。
アレックスは元より、梵英心には殺意がないという調査結果を纏めた幹英さえも、これを結論として動くのは早計だと思った。しかしブラウンがやれと言うなら、最終的には、仕方がない。
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