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☆ ☆ ☆

広島三次、山麓にて。
広島自衛隊に属する一部隊が、密かに活動を展開していた。隊員はみな手にスコップを持ち、横穴から土を掻き出しては台車に載せ、それをどこかへ運び出している。
その部隊の中に、ひとりの若い男がいた。眼光鋭く長身で、名を岸本秀樹と言った。彼もまた他の隊員たちと同様に台車を押して横穴の奥から姿を現すと、
眩しげに天を仰ぎ、それから首に掛けていたタオルを手に取り、泥と汗で汚れた顔を乱雑に拭った、そのときだった。

「キシモト」

自分を呼ぶ声に彼はハッとして振り向き、ガタンと音とたてて台車をその場へ置くと、駆け足で声の主のもとへと急いだ。

「大佐。岸本です」
「ご苦労さん」

彼を呼んだのは白い歯の印象的なスキンヘッドの黒人だった。アレックス・オチョアと言い、広島自衛隊の実権を裏で握るマーティ・ブラウンの最も信頼する部下の一人だ。

「ユーノウ、交代の時間だ」
「はい」

岸本は一礼してアレックスの元を去ると、近くにいた仲間に台車の運搬を頼み、それから少し離れた見張りの場所へと歩いて行った。

ここで現在行われているのは、仮設の基地の建設だ。とは言っても、一から穴を掘っているわけではない。古い防空壕を再利用するべく、修復を行っているのである。
これの当初の目的は、いずれ来るだろう西宮軍の侵略に抵抗するためだった。寡兵で大軍に対するには、ゲリラ戦で奇襲を重ねるしかない。そのためには、山中に基地が必要になる。
先月までで既に、必要とされるスペースの8割を確保することができていた、これは至極順調なペースだった。しかしここへ来て、文京軍が名古屋を急襲との報が飛び込んだ。
広島の独立を目指すブラウンは大胆にも…、これを千載一遇のチャンスと見た。勿論、名古屋が落ちることはないという読みが大前提にあってこそではあるが…、これによって世界情勢が大きく動く可能性がある。
目の前にチャンスがぶら下がっているというのに、防戦にこだわる道理はない。この機を逃さず打って出るため、防空壕の改修作業が急ピッチで進められているのだ。
作業に投入されている人員は、数にして300名は下らないだろう。


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