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「ちょっと二日酔いみたいで…、」
「ああ、そうなんですか」
貴哉は驚いた様子も呆れた様子も見せない。きっと珍しいことではないのだろう。
「どうもご迷惑をおかけしまして」
「いや、とんでもない。ああ、そういえば先に御名前を聞いておいて、失礼を。森野です」
「どうも。こちらは、」
貴哉はそこで言葉を切り、小柄な男のほうを向いて自己紹介を促した。しかし彼は微妙な笑顔をつくり、それをやんわりと拒む。
「…いや、いらないでしょ俺の紹介」
「そう言わないでさ。こちらは東出輝裕さん。勝浩兄さんの友達で、」
「あいつ多分俺のこと友達だと思ってないよ?」
自分でやらないなら…、とばかりに勝手に紹介を始めた貴哉の言葉を遮って、東出はまた衝撃的なことをサラリと言った。その表情はやはり半笑いのままだ。口元に笑みを浮かべつつも、目が笑っていない。
「じゃあ俺の友達で。それでいいんでしょう!?」
溜息混じりに貴哉は言い切った。あの結滞な兄に加えこの面倒な友人…、森野は貴哉の心中を察し、その苦労を思わずにはいられなかった。
「先に乗ってていい?寒い」
「ああうん、どうぞ」
紹介が終わった途端に東出は、義務は果たしたと言わんばかりに、さっさと助手席へ乗り込んだ。それを見届けて貴哉は森野に頭を下げた。
「すいません、いきなりピリピリしちゃって。…本当は昔から仲良しなハズなんですけどね、ちょっと最近、色々あったもので。
そうそう、彼はここのお師匠さんの甥っ子さんなんですよ」
「へえ、そうなのか…」
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