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こいつ駄目だ、と森野は思った。無敵のスラィリーバスターであるがゆえに許されている特権というものが恐らく永川には色々あるのだろうが…、こいつ、その上にあぐらをかいているどころか、ベッタリと寝そべってしまっている…。
「お、来た来た」
森野が鼻から溜息をついたところで、永川が声をあげて前方を指差した。ちょうど白のプレマシーがウインカーをあげて、道場の前庭へ入って来るのが見える。
「遅ぇじゃねーかよ」
やがて玄関前へ横付けされエンジン音を止めたプレマシーの運転席に向かって、永川は大声を出した。
「ごめん、ちょっと寄り道しててさ」
そう言いながら運転席から降りてきたのは、長身痩躯の人の良さそうな男だ。その肩をバンと叩きながら、永川は森野に向かい、こう言った。
「これ、うちの弟。貴哉」
「あ、どうも。兄がお世話になってます」
なんだ弟か、と森野はひとつ安堵の息をついた。それなら、多少は人使いの荒いのも理解できるというものだ。
「…似てないな」
「よく言われる」
目の前に並んだ二人の顔を順に見比べ、森野は正直な感想を述べた。それに対し、永川が間髪入れずに返事をする。
「でも、こいつは昨日の兄貴と違って、ちゃんと血のつながった弟だぞ」
「あ、お寺さん行ってきたんだ。ついでにじーちゃんの線香あげてきてくれた?」
「忘れた。いや、夜中だったし」
「ああそう。まあ、あげてきてくれてると思って聞いてないけど…」
「ていうか、俺ってばもうあの家の子じゃないしな」
「兄さんもしつこいね。まだそんなこと言ってんの」
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