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大沼は断りもなく勝手にテーブルの上へと荷物を広げる。その持参の小箱が開けられた途端に漂った薬箱独特のあの匂いに顔をしかめながら、帆足はまたぶっきらぼうに答える。

「さっきの血なら、全部返り血だ。心配いらない」
「ヘタな嘘つくな。聞いたぞ、左脚斬られたってな。見せてみろ」

その答えもおそらくは予想済みだったのだろう。ベッドへ腰掛けた帆足の前に椅子をひとつ置いて、自信満々に大沼は言った。
そこへ傷を負った脚を乗せろという無言の指示だ。しかし帆足は素直に従わない。

「…その場で止血した。問題ない」
「それだけじゃダメだ。どうせロクに消毒もしてないんだろ」
「いいから帰れ、俺は疲れてる。明日やる」
「バカ言ってんじゃない、そんなわけにいくか。…なんだ酒なんか飲んでるのか、傷に障るぞ」
「ガタガタうるせぇ野郎だな」
「早く帰って欲しきゃ、早く観念しろ。ほら、脚出せ」
「……」

帆足は渋々といった様子で、出された椅子に脚を乗せた。患部には乱暴に包帯でもない布が巻かれていて、そこに血混じりの体液が滲んでいる。
大沼はおもむろに腰の短剣を抜くと、巻かれた布を切開し、ゆっくりとそれを剥がし始めた。

「…ぐ」
「ああ、すまん」

帆足は押し殺したようなうめき声を出した。乾いた血で傷の淵が布にくっつき、引き剥がそうとすると痛むのだ。
それを理解した大沼は、持ってきた手桶の水を少し取って、布の上から傷口を濡らし、それからまた、ゆっくりと慎重に布を剥がしていく。
そして間もなく、創傷の全容が暴かれた。くるぶしの少し上、立ったとき地面に対して水平に、5センチほどの裂傷だ。
大きさ自体は予想していたほどではなく、大沼はひとつ安心したが…、しかし、決して軽傷ではない。

「深いな。長者に縫って貰ったほうがいいんじゃないのか」


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