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長者とは所沢解放戦線の参謀役で、本名を長田秀一郎、高学歴に裏打ちされた確かな頭脳に加えて医療の心得を持ち、大沼から特に信頼を得ている幹部の一人である。
しかし帆足はその名を聞いて、いい顔をしなかった。

「うるさい、ほっとけ」
「しかしだな」
「奴の厄介になるのは御免だ」
「そうか。それなら、仕方がないな…」

長田による加療を避けるということは、俺達幹部においてはすなわち、医者にかからないということを意味する。
なにしろ、例のクーデターの際に知識層や富裕層の人間はほとんど流出してしまい、優秀な医者は所沢の近郊には存在しない。
また幹部ともなれば、外には敵も多い身であるから、医者は信頼できる者でなければならない。これらの条件を鑑みれば、安心して治療を任せられる医者は、長田ひとりしかいないのだ。
しかし帆足があまりにムキになって嫌がるので、大沼はそれ以上この件を勧めなかった。一応言ってみたものの、拒否されるのは初めからわかっていたことだ。
総帥と呼ばれる立場の大沼がこうして、わざわざ応急処置に来ているのも、帆足が長田のところへ自主的に行くわけがないことが予想できたからに他ならない。
大沼は黙って、手拭いを桶の水に浸し、軽く絞った。その水の跳ねる音を聞くともなしに聞きながら、帆足は思い出したように口を開いた。

「ついでだから、ひとつ、貴様に言っておきたいことがある」
「なんだ」
「金輪際、俺の仕事に力者をつけるな」
「ほう」

その要求を聞いて、大沼は口元に緩い笑みを浮かべた。

「一応聞くが、なんで」
「邪魔だ」


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