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「それは、俺も同じことだから」
果たして慰めになるかどうかはわからないが…、森野は永川の横顔を見ながら、そう言った。自分とて結局、目的は賞金である。
永川とは、主義思想の違いはあれど…、世のために戦いに来たわけではないのだから、その点では同じことだ。
「そうだったな」
それを聞いて永川は、ふう、と息をつきながら、かすかな笑顔を見せ、そして天を仰いだ。
流れる雲影の向こうに細い月が見え隠れする。
「…兄貴は、俺より英心に戻ってきてほしいだろうな」
またしばらく続いた沈黙を破り、永川がつぶやく。
「それは、言っても詮無いことだ。どっちなんてことはない」
森野はその言葉を強く否定した。そもそも天秤にかけること自体が間違いだ。
倉の実直な性格は、森野にも十二分に伝わった。その倉に限って、そんなことを考える筈がない、そう確信できたからだ。
「そんなことはわかってる」
溜息をつきながら、永川は吐き捨てるように言った。
それがわかっているのなら、一体何が…、と森野は言おうとして、しかし、思いとどまった。そんなことはわかっている、わかったうえで、永川はそう言っているのだと気づいたからだ。
つまり、何事も絶対ということはない。永川の言っているのはそういうことだ。その考えも、実に永川らしい。
「畜生」
永川の口から飛び出た微弱な悪意が、森野の耳の奥をチクリと突き刺す。それでも森野は…、倉がどちらか一方の生還を望むことはないと信じた。
自覚は恐らくないのだろう、しかし…、
森野将彦とは、多分にそういう人間なのだった。
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