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「…つまりあいつは、当たり前だが…、本当に心の中を覗いてるわけじゃない。表面を見逃さないだけだ。だから表面に出てないものまでは読み取れない、ウソ発見器に毛の生えたくらいなもんだよ。
 まあ、わかりやすく言うと、どんなに目がよくても物陰までは見えないのと同じことだな」
「…なるほど」

永川の説明は明快だった、そして森野の求めていた答えに相違なかった。

「それに、難しいことが仮に読み取れても、あいつには表現の手段がない」
「しかしお前に、誰かを殺すかもしれない、と言ったじゃないか?」
「だから、そのくらいが限界なんだよ。あいつにはさっきの話の中身は理解できない。そんで、まあ、俺も大声出して大人げなかったが…、
 あんたから見りゃ、俺の顔は、ただ怒りに任せてブチ切れているくらいにしか見えなかったろ」
「まあ、うん」
「あれが奴の目にはおそらく、もっと強調されて…、鬼か悪魔の取り憑いたように見えるんだろう、そんでもって、その悪魔が兄貴を取って食おうとしてるようにでも見えたんだろうな。
 それに、奴にとっちゃ、俺のイメージ自体がそもそも良くないだろうし、そのへんから出た妄想じゃないのか」
「ふーむ」

森野は唸った。マサユキにとって永川の印象が良くないのは、永川がマサユキを毛嫌いするからだろうと森野は思ったが、
順序はともかく、そう考えると確かに、マサユキがあれほどに必死になった理由も感覚的に理解できるというものだ。

「まあ、そうは言っても全部俺の推測だから、実際どうなのかはわからんし、調べる手段も情熱もないんだが…、
 そういう半分現実、半分妄想のフラフラした世界であいつは生きてるんだろう、その世界で唯一信頼できるのが、うちの兄貴なんだろうな」
「そうか…」
「ご苦労なこった」

永川にしては随分感傷的なことを言うので、森野はつられてマサユキを想い感傷的になった…、
しかしその永川が続けて吐いた台詞があまりにも元通りの永川だったので、森野は少なからず気分を害した。


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