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そのころ、森野と永川は…、上り坂にさしかかったところで降りた自転車を押しながら、無言のまま並んで夜道を歩いていた。
というのは、ふざけながら寺を後にしたにも関わらず、つい先刻から突然、永川が黙ってしまったからだ。
無理もない、と森野は思った。さすがの永川も考えるところがあるのだろう、その心中、察するに難くない。しかし森野にも永川に聞きたいことが色々とあった。特に、最後の忠告は気懸かりだ。
だがマサユキと永川の仲を考えれば、その忠告がダイレクトに永川のことを指している可能性は低くないので…、その忠告の内容をそのまま永川に伝えることは憚られる。
思案ののち、やがて森野は沈黙を破り、永川にこう尋ねた。

「さっきマサユキ君に言われたことが、少し気になるんだが」
「本当に友達なのか、っていうアレか」

マサユキの数々の発言のうち、意味のありげな言葉のなかで、永川が聞いたものはこれが最後だ。だから、そういう尋ね方をすれば、当然、焦点はここになる。

「そう。あれはやっぱり、俺たちの心の中のいろいろ、例えば背景にあるものとか、そういうのを踏まえてそう言ったんだろうか」

一体何をどこまで読まれた可能性があるのか、気になるのはそこだ。永川は聞きたいことに答えてくれるだろうか。果たして。

「…そんな神経質にならなくていい」

永川はぶっきらぼうに、そして事もなげにそう言った。

「というと」
「兄貴に聞かされたんだろ、マサユキは人心を読むとでも」
「まさにそう聞いた。だから気になるんだ」
「そんとき、兄貴は言わなかったか?あいつが読んでるのは相手の表情と態度だって」
「確かに仰ったが」
「だったらわかるだろうよ」
「何が」

釈然としない顔の森野を見て、永川は片眉を上げ、あごひげを撫でた。


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