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そうして、どのくらいの時が過ぎただろう。永遠のような数秒、あるいは数分ののち、倉はようやく口を開いた。

「…すまない」

散々に乱れた幾千の思いが、その一言に集約した。未熟で不徳な自分の弱さが表出し、結果、自身の護るべき命に宿る繊細な心を惑わせた、そのことに対する謝罪だ。

「……」

確かに伝わっただろうか…、いや、そんなものは伝わらないでもいい。ただ願わくば、彼に少しの安堵を…、しかしマサユキは応えなかった。
そうなれば、倉がその腕に抱え込んだ心のなかを覗く術はない。
同様に、マサユキにも、今は倉の表情が見えない。仮に見えたとしても、突然自分の中へ流れ込んできた悲しみに、ただでさえ動揺してしまったその心は…、
その上でさらに倉の顔色を窺う勇気など、とても持ち得なかったに違いない。
広くがらんとした寺の玄関口を、一層寒々と照らす蛍光灯の下、二人はそれぞれに孤独だった。
その頭上では、光に呼び寄せられた蛾が、開け放たれたままの戸口からいつの間にか迷い込み…、
すでにぼろぼろに傷ついた羽を、何度も何度も、蛍光灯へと打ち付けていた。


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