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先に前田から課された地鶏とは、すでに明らかになっているが、思考とは無関係に気と心の安定を保つ訓練に他ならない。そして、これこそが気を自在に操るための第一歩なのだ。
しかしこの訓練には抜け道が存在した…、森野が先刻そうしたように、思考そのものが停止しているのに近い状態が保たれていれば、同様の結果が得られてしまうのである。
それでも、地鶏ができたならできるはずだ、と永川は言うが…。
ふと、右腕にざわざわという感覚が走った。心が乱れているので、気が乱れているのだろうということが、今の森野には理解できる。
特に右腕はいま気の通り道が失われているから、とりわけ大きく気が乱れているのだろう…、
森野はそう考え、無意識にその様子を想像した、自分の腕の中を、青白い色をした気が、大きく波打ちながらうねるように流れていくところを。そして森野は気づいた。これは季節外れのプールより断然想像がしやすい。
なぜなら、腕に実際に通っている気のざわついた感覚が、頭の中にイメージされた映像と直結しているからだ。
それならば…、と考え、森野は薄目を開けた。そして右腕を見る、その腕に、気の流れて循環していくイメージを重ねると…、
「んー、ふぁ〜〜、」
重ねると………、
「よく寝た」
…最悪だ。
「おー目が覚めたか、あっちの部屋行こうか、そうだ、金平糖食うか?」
「…子供を甘いもんで釣ろうとするのはどこの家も同じだな」
いや余計な話を聞かなくていい、もう少しでいけそうなんだ、頑張れ俺、
「ん」
「あ、こら、」
ぺたぺたと裸足の足音が近づいてくる。でも俺に用があるとは限らない、気にせず集中しろ……、
「誰だお前」
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