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永川がものすごい剣幕で脅すので、森野はそれに圧倒された。そういえば永川は施術前に、まともに修業をするのに比べればリスクもあると言っていたが…、それは恐らくこのことだったのだろう。

「一度呼吸を落ち着けて、目を閉じろ」
「……」
「そうしたら、川の水が、きれいに澄んでいて、おだやかに一定の速度で流れていく様子を想像するんだ。できたか」
「…まわりの景色は」
「好きなように」
「季節は」
「どうでもいい。ああいや、台風の後はダメだぞ。…できたのか」
「…」

森野は名古屋の街中に生まれ育ち、従って自然の中で遊んだこともなく、澄んだ川といわれても、なかなか具体的にイメージができない。
川といえば、浮かんでくるのは…、少し淀んで緑色をしていて、よく覗き込むとフナが棲んでいるような奴ばかりだ。

「あの、川の水は澄んでないとダメなのか」
「なんでもいい。一定量で流れていればドブでも水道水でもなんでもいいから」
「…わかった」

なんでもいいと言うので、森野はいわゆる『流れるプール』を想像した。…真夏の日差しの下、塩素の匂い、水色の塗装のプールに一杯に満たされた水が、きらきらと波をたて、ゆったりと流れてゆく…。

「できたか」
「…できた」
「じゃあ、そのイメージを頭から消さないように注意しながら、気を通してみろ」
「それは…、なかなか難しいな」
「まあそうだろうな。でも地鶏ができたんだろう、そんならできるはずだ。ほら、つべこべ言わずやれ。言っとくが、川の流れるイメージが消えたら気を通すのもヤメだぞ、危ないから」
「わかったわかった」
「これができない間は帰れないからな」
「なんで?」

永川がさらりと口走ったその言葉に、倉が疑問を差し挟んだ。


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