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仮にさっきまでの調子なら、鍵がかかっているのは当り前だ、などと言い捨てるところだろう。しかし今、応急処置をしながら帆足が岸にかけた言葉は、それまでの語調とは一線を画している。
岸は聡くそれに気づいたが…、しかし、その訳をわざわざ尋ねることはしなかった。理由はわからないにしろ、まともに接してくれるのなら、それで、とりあえず文句はない。

「…、どうするんですか」
「待ってろ」

やがて処置を終え、立ち上がり、帆足は岸の背後へと歩み寄った。

「怪我はどうです、結構、ざっくりやられたように見えましたが…」
「ああ、まあ、やられたな」

事もなげに帆足はそう言うが、それが決して軽傷でないことは岸の目にも明白だった。膝下に巻いた麻布が、片脚だけ集中的に血に染まっている。全身に浴びた返り血とは見た目に異なる。かなりの出血だ。

「ちょっと降りてこい」
「あ、はい」

足場に乗ってコンテナに張り付いていた岸が降りるのと入れ替わりに、帆足が足場に足をかけた。そのとき帆足の表情がわずかに歪んだように見えて、思わず、岸は声をかけた。

「大丈夫ですか、その脚では」
「うぜぇ黙れ。貴様も斬られたいのか」
「すみませんっ」

せっかくまともに会話ができるようになってきていた鬼神の逆鱗に触れ、軽率だったと岸は内省した。小野寺という要素がそこに加わっていたにしろ、不注意から負った怪我だ、つまりは不名誉。
本人が別状ないというアピールをしているのだから、わざわざそこを蒸し返すのは、配慮が少し足りなかった。


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