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森野は言葉を失った。ある一分野に超人的な能力を発揮するというのは知的障害者にはままある現象だが…、それにしても、人心を読むとはただごとでない。

「それも…、もしや、気の能力のなせる技」
「いえ、そんな大層なものではありません。正確に申しますと、本当に心を読んでいるのではなくてですね、まあそれは当然ですが…、
 人の表情や声色、それに手先や身体の動きの機微なんかを、我々が認識できるよりも、少し高い精度で読み取っているのだと思います。
 今は表現力が不自由ですから、感じ取ったことを的確に言い表すことがなかなかできませんが、仮に、この能力が以前からあったのだとしたら…、
 これは私の推測ですが、あるいは、この能力のお陰で一命を取り留めたのかも知れません」
「成程、もしもそうでなければ、他の犠牲者のように…」
「そうです。そして…、勝浩がマサユキを異様に嫌うのも、きっとこのせいでしょう」
「…と、仰いますと…」
「あの子は昔から、自分自身の考えや気持ちを表現するのが苦手でしてね」

そう言って目を伏せる倉の表情を見ながら、森野はこれまでの永川の言動を思い起こした。
言われてみれば確かに、永川は、何を考えているのかが量りにくい男だ。思っていることの半分も口にしていないのではないかと思える節すらある。
先刻も、本意でないながら進学を諦めた話などするから、気を許してくれたかと思って持ち上げたところを、直後に手ひどい反撃を受けたばかりだ。

「普通なら、相手がそういう人間だとわかれば、以後はそれなりの対応をするものですが…、マサユキはそれができませんので、思ったことを口にしてしまいます。
 勝浩にとっては、そのことが、何より許しがたいのでしょうね」

倉の言っていることは、森野にもわかった。つまり、内向的な永川にとって、自分の領域に土足でズケズケ入り込んで来るマサユキは排除すべき存在、つまり敵なのだろうという推測だ。
なるほど的を射ている、納得もいく。…しかし。

「それは…、例えば、正直な子供に図星を突かれて、本気で腹を立てるようなものではありませんか」
「ま、そのようなものです」
「はあ」

思い切って極端な例を示したつもりが、あまりにもあっさりと倉がうなずくので、森野は拍子抜けしてしまった。


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