234
「そんで名古屋さん。どうじゃった」
唐突に、前田が口を開いた。どうというのは勿論、後で聞くと言った修業の話だ。
「苦心しましたが、どうにか終えました」
「なに」
森野の答えを聞いて、前田は突然箸を止めた。
「終えたっちゅうのは、全部小屋へ入れたっちゅうことか」
「はい」
「…本当にか?」
「本当ですよ、見ましたから」
前田がしきりに首をひねるので、永川が横から口をはさんだ。
「しかし、たった一日で…、たいしたもんじゃ、ワシャとても無理じゃと思うとったがの。ナー、お前さんシラっとしとるが、驚かんかったんか」
「いや、驚きはしましたけど。ドアラマスターやっているくらいだから、鶏もなつきやすいとか、実際英心がそうだったように、そういうこともあるのかなと思いまして」
「ああまあ、そういえば、あれもそうじゃったか、英心のときは全然訓練にならんで逆に苦労したのぉ」
「…いえ、なつきやすくは…、」
『続いてのニュースです…、広島東洋カープ黒田博樹選手のロサンゼルス・ドジャース移籍が決定しました』
「おお、決まったんか黒田。良かったの」
「そりゃ、いずれ決まるでしょうよ。条件を欲張るようにも見えませんし」
「ほんまに行ってまうんやなー。カープはどないなるんやろ」
「……」
森野がまだ喋り終わらないタイミングで、ニュースキャスターが地元球団の主力選手の移籍を伝えた。
するとその途端、前田に山崎、それに永川までもが、それぞれにわかに箸を止め、好き勝手意見を述べはじめる。
それまでのニュースがほとんど聞き流されていたというのに、突然のこの豹変ぶり。思わず森野は言葉を飲み込んだ。
[NEXT]
[TOP]
[BACK]