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新井がたどたどしく述べる意見には何の進展性もなかったが、そのかわり妙な説得力だけは持っており、荒木と上田は思わず唸った。
確かに森野はそういう奴だ。荒木もそれは知っている。今回はコトが大事だから、そんなはずはないと思い込んでしまっていたが…、
今回も、もしかすると…、あまり深く考えることなくフラリと出ていってしまったとでもいうのだろうか、よりによって、この大変な時に!
「…だとしたら、我々にできることは何だろう」
「僭越ながら、…とにかく、ここを死守することかと存じます」
溜息混じりの荒木の言葉に、上田が答えた。
その意見は的確だ。現実的に考えれば、今やどこへ行ったのかもわからない森野に関して、一将校である荒木、まして一兵卒である上田や新井ができることは何もない。
「…隊長は、きっと戻ってきますよ。自分はそう思います。だから、隊長が戻ってくる場所を、ちゃんと守っておかないと」
上田に続いて新井もまた、ひとつひとつ自分に言い聞かせるように言葉を繋いだ。
何もできないもどかしさ、この先の不安は彼らも同じ…、いや、彼らは突然に隊長を失ったのだ、むしろ荒木よりもその気持ちは強いだろうに、しかし彼らは気丈である。
井端の態度に一喜一憂し、一時とはいえ最悪の事態まで考え、安易に絶望した己を荒木は恥じた。
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