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「そうだ。知っていることなら、なんでもいい」
「なんでも、ですか」
「ああ」
「そうですねぇ…」
再度聞き返したのち、訝しげな表情のまま新井は喋りだす。
「隊長はドアラマスターで、お顔もドアラに似ていらして、努力家ですがわりとマヌケですよ」
「いや…っ、ありがとう、」
「バカ、お前は黙ってろと言ってるだろう」
「痛てっ」
「…大尉、本当に申し訳ございません」
目にも留まらぬ速さで新井を殴り、そして頭を下げる上田に荒木は苦笑した。これが森野隊のノリなのか…。
もしかすると森野隊では、ボケかツッコミの最低どちらかがよくできないと、皆に馴染むのは難しかったりするのだろうか、荒木はまたひとつ要らぬ心配をした。
「今回の失踪の件は、我々も本当に驚いているばかりです。昨日もまったく変わった素振りもありませんでしたし…、良太はなにか気づいたことはあったか?」
「いえ、何も…、隊長はお出かけになる時には大抵自分に行き先を教えて下さるんですが、今回はそれもないんですよ。ですから本当に、どこへ行ったのかも」
「行き先は、これは中佐の推測といえばそれまでだが…、広島へ行ったんじゃないか、と中佐は言うんだけどね」
「広島…、ですか」
上田が天井を眺めながら逡巡する。昼間の出席者が皆そうしたように、森野が今、広島へ行かねばならない理由は何かと考えているのだろう。
「…中佐はなぜ、隊長が広島へ向かったとお考えになったのでしょう」
「昨日、本人と直接話したらしいんだ。それで、その時の様子から、ってね。何を話したのか、詳しいことは言ってなかったが…」
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