136
不承不承といった感じでカーサは脱線した話を切り、そして無理やり元の話題へと戻す。しかし前田はこの話題になると、うって変わって容赦ない。
「どこも惜しくなんかないわ。最初のカウンターを外した後は、ほとんど後手に回っとったじゃろが。相手がスキを見せんかったら、ロクに反撃もできん」
「スキをつく戦略自体は悪くないと思います。彼の特性からいっても」
「たとえ一度くらいスキが突けても、パンチが弱い。そこをカバーするには手数を増やすしかないちゅうに、それで相手より先にバテるんではの…」
「パンチが弱いのは、お師匠さんがどうにかしてあげられる部分じゃないんですか?勝浩さんはここでの修業で随分伸びたでしょ?」
首をかしげながらカーサは尋ねた。しかし永川の名が出た途端、前田は急にバツが悪そうな顔をして頭を掻きはじめる。
「ナーと比べんでやってくれんか、あれはワシの教えがどうこうでなく、ハッキリ言うて、化け物じゃけ」
「あら、またまた。化け物ってんならお師匠さんのほうが余程」
「いや、あれは…、別に気の扱いが器用だったりはせんし、むしろ不器用ちゅうか、できることは少ないんじゃが、腹に溜めておける気の量だけは人間離れしとるんよ。
ナーは本来、気を練ったり自在に操ったりするのには向いとらん。気の扱いは半分イメージの世界じゃけぇの、頭の固い奴には向かんのよ。
典型的な、修業させても大した事もできんまま終わるタイプじゃ。そんでも、あんだけ量が溜め込めるなら、話は変わってくる。
不器用でも、放っておくにはあんまり惜しい器じゃったけぇ、子供の時分にちょいと辛い思いさせたとは思うが、最低限の事は叩き込んだんよ」
[NEXT]
[TOP]
[BACK]