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「浩司さんは持久力に自信がないから勝負を焦ったわけで…、
お師匠さんが経過時間をもっと細かく伝えていたら、…ぷふっ、名古屋さん…、でしたっけ、彼は勝てなかったはず。
仮に残りが30秒程度とわかっていれば、あそこで無理な勝負に出ることもなく、逃げ切れたことでしょうから」
「それができんけぇ、半人前なんよ」
「感覚で正確な10分が計れないから、半人前?」
「そういう訳じゃのうて…、いや、そんな事を言いたいわけじゃなかろ。じゃが、そもそも全力で10分ももたんのではのぉ」
「それは…」
ここまでつらつらと立て板に水を流すように喋っていたカーサだったが、前田のこの指摘を受けると、急に言葉を詰まらせた。
カーサ自身は武芸に優れるわけではなく、それ以前にそもそも人間でないが、この土地で修業する人々の様子をずっと長いこと見てきているから、知識だけはそれなりにある。
言うなれば、野球をやったことはなくても、好きでスタンドに通ったりテレビにかじりついたりすることで身につく知識があるのと同じだ。
だから…、カーサにも前田の言うことは尤もだと理解できる。現状で山崎の欠点は色々あるが、状況判断を云々するよりも前に、まず全力で10分間も闘えないのでは何をするのも厳しい。
そんな事はわかりきっている。しかしカーサは引き下がらない。
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