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「ほら。勇人さん待たせてるから。早く」

そう言うと永川は、山崎の目の前へ、背中向きに膝をついた。突然の行動に山崎は戸惑う。

「え、何」
「身体痛いんだろ。おぶってやるよ、お前軽いしね」
「そんなん、大丈夫やて」
「いいから。待たせてるからって言ってるだろ」
「じゃあ…、」
「おし」

背中は痛むが、別に歩けないほどではない。いつもなら、子供扱いすんなと言って拒むだろう。
しかしこの時ばかりは、永川の優しさが嬉しくて、山崎は素直にその背を借りることにした。
スラィリーに対してはあんなに冷徹な永川が、いつも師匠には細やかな配慮を欠かさず、自分にもこんなに優しくしてくれる、
そのことがどこか誇らしく、嬉しくて、そしてほんの僅かだけ不気味に、恐ろしくも感じられる。
それは、近づいてはいけない、という戒めを破って古井戸の中でも覗き込んだような、そんな恐ろしさに少し似ていた。


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