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…見てはいけないものを見た、と山崎は直感した。これ以上深く考えるのはまずい。
実際に自分がなにかされたわけでもないのに、いやな癖ひとつふたつ見つけたからといって余計なことをぐだぐだ考えても、いいことなど何もない。
永川はよき友だ。それを超えるものではない。ごく身近な範囲では師に次ぐ実力者であるから、つい尊敬のまなざしを向けることも時にはあるが…、
彼は人の上に立つ人間ではない。その彼に常に自分以上の規範的行動を求めるのは筋違いというものだろう…。
「やまちゃん、どうした、もしかして歩くと痛いのか?」
呼ぶ声にハッと我に返って見ると、いつのまにか銃を肩へ背負った永川がすぐ後ろに立っている。その気遣うような表情からは、当然ながら、欠片の悪意も感じられない。
「ナー、ひとつ、聞きたいんや」
意を決したように、山崎は口をきいた。この件で永川を蔑視することはしない。だがやはり、真意は聞いておきたい。
「ん、何」
「ナーは、しょちゅう、こんなことしとんのやろ。…どう思うとるんかな、思うて」
「どうって。別に。ていうか、何が?」
その質問だけでは何が聞きたいのかを理解できず、永川はぱちぱちとまばたきをする。
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