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…何、何や自分、おかしいやろこないな気分。人殺したわけやないんやから。いっつも魚も捌いとるし肉も食っとるやん、同じやろ?
またしても理解できない感情にとらわれた自分自身を納得させるべく、山崎はつとめて冷静に頭の中でそうつぶやいた、
そのとき、隣に立っていた永川が、おもむろに口を開いた。
「どうだろ」
どうって何が。山崎は反射的に永川のほうを向いた。そこで山崎は見たのだ…、
両手をポケットに突っ込んだ永川が、革のブーツの爪先で、そこに横たわる死骸をつつくのを!!
「随分傷つけられちゃってる。これだと毛皮はあんまり期待できない感じかな」
山崎の動揺に気づくことなく、永川はさらに、地面に投げ打たれた腕の一本を足の甲に乗せるようにして持ち上げる。
そのまま20センチほど上げたところでその腕はブーツの上を滑り、ドサリと音を立てて地面に落ちた。反動で片足立ちの永川がよろける。
「いや、そんなこともないだろう。一枚モノとしてはそりゃ無理だろうけど、この程度ならバラせば大部分捌けるんじゃないか?」
青木も永川の足元を気にする様子は全く見せない。あたかも路傍の石を踏みつけるさまでも見ているかのように、いや正確には、それも見ていないかのように。
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