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永川は視界の左から右へ移動していく土煙から目を離さないまま、肩からゆっくりとライフルを下ろし、鞄をごそごそ探って、銃弾をケースから一発だけ取り出すと、
それを右手につまみ、やはりゆっくりとした動きで唇の前まで運び、それからおもむろに、フゥ…、と少し長く吐息を吹きかけた。
「…こんなもんかな」
ひと呼吸おいてそうつぶやくと永川は、その弾を手早く装填し、今度は右から左へ移動してくる、やや間のつまった土煙をしばらく目で追って…、
ここが頃合と見るや、ライフルを構え、それまで潜んでいた木陰から、一気呵成に駆け下りた!
その姿は必死にスラィリーの追撃から逃げる山崎の視界の、左前方に捉えられた。
ナー、すまん!でもとりあえずどないしたらええかわからんねん…、コイツ怪我しとるし、少し走らせたらヘバるか思てんけどあかんわ、こっちの息が持たん…、
「…やまちゃーん、…、」
あれ、ナーが何か言うとる…、
「何やてー!?聞こえへーん!!!」
「…跳べー!!」
「せやかてー、」
「聞こえないのかー!?こっちに跳べ、跳べって!!」
聞こえた、聞こえたけど、んなこと言うたってぇ…、
「近すぎるー!!無理やー!」
「いいから!なんとかする!はやーく!!危なーい!!!」
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