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「ひぇっ!!」
山崎は自分のどこから出たのかわからないような妙ちきりんな声を上げ、思わずその場を飛び退きそうになった…が、そこはすんでのところで持ちこたえた。
ヤバイ!ヤバイヤバイ!これはヤバイて!見られてるやん僕!めっちゃ見られてる!!
どないしょ、いや、そんな慌てることない、ないったらない、落ち着かな、ええと、言葉の通じん相手はとにかく…態度で威嚇や!
「なんや、かかってくんのか!?来んなら来いやコラ!こっちゃ子供のころから道場篭りでそこそこ修業しとんのやで!!」
山崎は片足を引き拳を握って構えの姿勢をとり、細い目を精一杯吊り上げてタンカを切った。言っていることはわからないまでも、身体を取り巻く気が闘気に変わる不穏な気配はおそらく伝わっていることだろう。
しかし…、スラィリーは腰を上げない。かといって山崎は逃げることもできない、なぜなら、
スラィリーを挑発しながらどうにかして民家から引き離し、永川の待機している裏山まで誘導することが、いま自分に課せられた任務だからだ。
そのまま数十秒。なおも睨み合いが続く。スラィリーの目は丸く見開かれていて、そこから何かを窺い知ることはできない。
山崎としては、ある程度距離のある段階でスラィリーが立ち上がり、襲い掛かってきてくれたほうが好都合だ。
向こうがかかって来ないないのならば、こちらからさらに接近するしかなく、間合いが詰まればそのぶんだけ、第一撃を回避することが難しくなる。
跳んで逃げようにも相手は高さがある、この距離なら、はたき落とされる危険を考えれば走って逃げるほうが確実だが、跳ぶよりはどうしても初動が遅れる。
相手も体力を消耗しているから、一撃で狙いに来るだろう。
これ以上近づかなければならないとなると、最悪、倒れこんできた時に…。
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