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そして、およそ30分後…。

いま、山崎の前方数メートル先に、地面にうずくまってなお人の背ほども高さのある、毛むくじゃらの青い化け物がいる。
「デカイなあ…」
思わず、山崎はつぶやいた。スラィリーは人間よりも大きい、そんなことは広島では子供でも知っているが、こうも間近で見てみると、なんと圧倒的な存在感か。
おそるおそる、二、三歩、前へ進んでみる。ますます巨体が大きく見える。その背後には木造の家屋。…小さい子おったりするんかな、今頃怖い思いしとんのやろなぁ、でも今はこっちのほうが怖いです絶対。
また一歩、近づく。距離は3メートル程度まで縮まった。スラィリーは目を閉じている。
まさか、この距離まで人間が近づいているというのに、それに気づかないなどとは考えにくいが…、目の前の怪物はざっと見たところでも何発か銃弾を受けており、
失血も相当な量のようだから、もしかすると体力を損耗しすぎて眠っているのかもしれない。
なかでも左腹部にある銃創はいちだんと大きく、また出血も激しくて、ひときわ目をひく。それを見て、まずごく自然に、例えば氷を見て冷たそうだと想像するのとまったく同様に、痛そやな、と山崎は思った。
…どんなに痛いやろか。腹に穴あいとんのやからな、相当痛いやろな。僕撃たれたことないからわからんけど、
そや、虫歯抜かれたら歯茎に穴あくな、もしかしてあんな感じやろか。あれを何倍かした感じかな。
そういや、お師匠さんも、弾に当たって脚切ったんやった。お師匠さん。あんときは苦しそやったな。電車ん中で熱出して、横になって、脂汗かいてうなされて、この人死ぬんやないかと思たもん。
お師匠さんのあんな苦しそうなお顔見たの、あれが最初で最後やな。あの意地っぱりのお師匠さんがあんなんするんやから、きっと死ぬほど痛いんや。
だから、きっと、こいつも…。


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