089
「…外で声がするな」
沈黙を破って、李が席を立つ。
「開けてもいいか?」
「ああ…」
井端が是というので、李は部屋のドアを開ける。
「きゃ!」
悲鳴が聞こえた。急にドアが外側へ向かって開いたので、ドアにくっついていた二匹は正面から押される恰好になったが、
機敏に動けるマックスとは違い、パオロンはそのままドアに押され、後ろへ転んでしまったのだ。
「荒木よりも先にここを嗅ぎつけて来るとは。大した子たちだな」
転んで短い手足をじたばたするパオロンを抱き上げながら、李はそう言って苦笑した。
「マックス。荒木はどうした」
「なにを聞くかと思えば。御主人が持ち場へ戻れと言ったんじゃないか。この世が終わったような顔して、戻って行ったぞ」
ドアが開くなりベッドの上へ飛び乗り、主人の脇へ控えたマックスは、先程までの表情はどこへやら、井端の問いにすまして答える。
「荒木さんは優しい人だから…、その場で森野さんを助けるって聞けなかったのがショックだったんじゃないかしら、…あっ、ごめんなさい」
パオロンは、井端の前では途端に強気に振舞うマックスのぞんざいな言葉を補足しようとしたが、すぐにみずからの失言に気づいた。
「いや、気にしなくていいよ。しかし、あれで大人しく戻って行くのが荒木らしいと言えばらしいか…、
ああ、そうだ、そういえばビョンさんも、マスターだったんだな」
はっとして両手で口を押さえる、李の腕に可愛らしく抱かれた小さな桃色のその姿を見ながら、井端は思い出したように言った。
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