088

「…何をぐだぐだ迷っているんだ。西から増援が貰えれば、基地が落とされるなんてことはまずないだろうに。
 そうなったら後は森野大尉と心中するかどうかの一点じゃないか。早く決めろよ。だらしがないな」
「だめよマックス、いらいらするのはわかるけど、御主人をそういう風に言うもんじゃないわ」
決断を渋る井端に苛立ちを募らせる愛犬を、桃色の龍の子供がたしなめる。
「パオロン。君は本当に親の躾けがいいな。だが御主人にとってこの局面は重大なんだ、
 名古屋に何の関係もなく、帰る国もある君の父上とは違ってさ。とてもじゃないが、俺は穏やかでいられないね」
「マックス!」
悪意のこもった言葉をぶつけてくるマックスに、パオロンは思わず大きな声を出した。
思わぬ牽制を食らったマックスは目を丸くして、ハッと短く息を吸い、それからうなだれたまま首を数回左右に振った。
…俺は何をやっているんだ。
目の前にいたというだけの理由で、つい、女性に八つ当たりするような真似を。
この子が父と慕うその人は、経験が浅く決断に窮した主人にこうして助言をくれているというのに。…何という。恥知らず。
「…すまない。忘れてくれ。俺もどうかしてるんだ」
その声はわずかに震えているようだった。主人の急に際し何もできない自分への苛立ちを抱えじっと床を見つめるその姿が痛々しく…、
パオロンもまた、人知れず、その小さな胸を痛めるのだった。


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