066
「さて、そろそろ腹も収まったかの。いつまでも喋っとらんで、始めるか」
やがて前田の発した一言に、森野はふと我に返った。始める…、とは?何を?
「なんじゃ、その顔は。言うたじゃろ、実力を把握しとくんが先決じゃて。手合わせじゃ、お前さんがどんだけのもんか、ワシに見せてみい。
…そうじゃの、浩司、お前が相手せえ。ナーはよぉ見とれよ」
森野は一瞬、耳を疑った。それもそのはず、前田が自分の相手に指名したのは永川ではなく、家事手伝いの山崎だったのだから。
「え?お師匠さん、コージ言いました?僕?」
「二度言わすな。お前じゃ」
森野だけでなく、指名された山崎も怪訝そうな顔をしている。しかし、見とれよ、と言った前田の顔はあまりにも楽しそうで、誰にも口をはさむ余地を与えない。
「ほんなら、まあ…、わかりました」
テーブルに乗っていた皿を食器洗い機にガラガラと詰め込み電源を入れると、山崎はまた前田に肩を貸し、歩き出す。
「ほら、行こう」
森野は釈然としない気分だったが、永川に促されたので、とりあえず前田のあとへ続いた。
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