052

山崎が驚くほど話に食いつかないので、永川は、本来安堵すべきであるのにどうにも釈然としない、例えばブスに食わず嫌いされた時のような、微妙に納得のいかない気分になった。
くそ、世間で噂になってる位なんだから信じる奴だって多いはずなのに、これじゃまるで俺が余程のバカみたいじゃないか…!
「ほら、アホ言うとらんで、お昼にしましょ。用意できてまっせ」
「おお、もうそんな時間かの。ま、ここまでいっぺん纏めると、つまりナーの考えた作戦は実現できんと、そういうワケじゃな。
 ウソはウソと見抜ける人でないと、噂話をアテにするのは難しい、ちゅうことじゃ」
「お師匠さん…」
そんな仰りかたをしなくても、という目で永川は前田を恨めしそうに見た。
「まあまあ、発想自体は悪くないけぇ、そんな顔するな。じゃが、彼を知り己を知れば百戦危うからず、じゃけ。
 作戦を立て直す前に、お前さんたち、少し、互いの力量を知っておいたほうがええの」
「互いの力量を知る…、というと?」
前田の軽い言葉が気になって、森野は詳しい説明を求める。しかし前田は悪戯っぽい顔をしてそれをはぐらかし、答えようとはしなかった。
「とりあえず、メシもできとるようじゃけ、昼じゃ昼じゃ。今日は何かの」
「パスタです。青菜とベーコンのオリーブオイル」

ああ、さすがはスイーツも取り寄せる前田道場。昼食のメニューもなんだかお洒落だ…、
そう思いながら森野はドアラを起こし、山崎に促されるまま部屋を出ようとした。そのときだ。
同じく立ち上がろうとする前田の足元が森野の視界の隅に引っかかり…、そこに見えた金属色の何かが、窓からの陽光をギラリと反射した。


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