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「ナーの両親もな、こいつが図体のでかいわりにおっとりして泣き虫じゃったもんで、寺で鍛えて貰えるなら、ちゅうくらいの気持ちで承諾したと思うんよ。
 実際、スラィリーが人里へ降りてくるなんちゅうことは、さっきも言うたが滅多にのうて、次の世代が育つまでのせいぜい三十年ばかしのあいだに、スラィリー折伏を本当に行う機会なんて、一度あるかどうかもわからん。
 それに大体、寺の跡継ぎが健在なら、ナーは別に何もすることはないんじゃからの。今時、十まで育った子が、その後若いうちに命を落とすなんちゅう確率は、
 そりゃ全くないとは言わんが、戦争にでも巻き込まれん限りは低いじゃろ。普通は、まさか何事かあるとも思わん」
スプーンを手先でぶらぶらさせながら、前田は森野を見た。森野はそれに応え、首を縦に振る。
「しかしのぉ…、そのまさかが、起こったんじゃな」
「…」
永川は黙って下を向いている。前田は永川を気遣うようにその横顔をしばらく見やったが、やがてまた、口を開いた。
「今から五、六年前、そんときは二人ともここで修業しとって、ワシが預かっておったんじゃが、英心の様子がちょいとおかしゅうなっての。
 考え事をしよる時間が多くなったんよ、昔なら考えるより前に体が動くような奴じゃったのに。
 ただ、それも今にして思えば、ちゅう程度じゃけ、当時はワシもナーも、誰も、特に何も気にすることはなかったんよ。
 じゃが、しばらくして突然、あいつは姿を消しよった。その年の秋じゃな、山でスラィリーマスターらしいもんを見た、ちゅう噂が聞こえはじめたんは…」


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