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「まあ、聞きんさい。…その子は学校に上がる前から、住職でもある父親の手で修練を受け、順調に腕を上げていったんじゃがの、その間、寺になかなか次の子供が生まれんかった。
 秘術を継承するのがたったひとりでは、そのひとりに何かあったらまずいことになるじゃろ。そこで、その子が数えで十になった年に…、」
前田はチラ、と永川のほうを見た。つられて森野もそちらを見ると、永川はすっかり冷めてしまった紅茶の液面を見つめている。
「…近所の檀家の子供で、その子とも仲がよかったナーを寺で預かり受け、二人目の継承者として育てることにしたんじゃ。
 ま、ワシはそのころ、まだ傭兵稼業をしとっての…、留守にしとることも多かったけぇ、後から聞いた話なんじゃが、
 ナー、ここまで間違いなんかはないかの」
「はい、まあ、大体…」
細かいことを言えば、別に当時は特別に仲が良かったわけではない。英心が一方的に、永川を子分として気に入っていただけのことだ。
もちろん、仲が悪かったとは言わないが、快活なガキ大将で、悪童という表現がぴったりな英心に「お前来いよ」などと言われれば、大人しくてどちらかといえばマジメな優等生の永川としては、断る術がなかったのである。
だから、二人の仲がまっとうな親友に発展するのは、寺やこの道場で共同生活をするようになった後のことだ…、
しかしそれは話の本筋と関係ないので、永川は前田の問いに対し、ただ静かに、うなずいた。


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