036
「とりあえず、あの、先刻のお話を先に…」
プリンを半分ほど食べても口論の終わる様子がないので、見かねて森野は口をはさんだ。
「おお、そうじゃったの。そうそう、それよ、名古屋さん、本題に入る前に、お前さんにはあらかじめ、どうしても聞いといてもらわんとならん話があるんよ」
実のところ山崎を甘やかしている自覚があり、永川に対してややバツが悪かった前田は、渡りに舟とばかりに森野のほうへ向き直る。
「と言うても、ナーからすでに聞いとるかもしれんがの。スラィリーマスターを討とうとするんなら、ワシもできる限りのサポートはするが…、
たとえば作戦通りに事が運ばなかったり、なんやかんやで不測の事態になった時は、ナーの身の安全が最優先じゃ」
そういえば前日、永川も、俺はともかくあんたの命の保障ができない、と言っていた記憶がたしかにある。
しかし前田があまりにもきっぱりとそう言うので、森野は面食らった。所詮よそ者の自分にくらべ永川は前田の弟子、それもここまでの情報から推測するとおそらくは一番弟子なのだろうが、
内容はともかく、普通はもう少し相手に配慮した物言いをするものではないのか?
その森野の頭に浮かんだ当然の疑問に対する答えを明らかにすべく、前田は続ける。
「別に身びいきでそう言うとるわけじゃないんよ。気を悪くせんで言うても無理じゃろうが、これにはワケがあっての…」
「…」
「…」
前田は意味深に言葉を止めて、紅茶を口へ運んだ。沈黙がしばらく続く。
「…ほれ、ナー、早うワケをお聞かせせんか」
「え、俺が喋るんですか」
「お前の身の上じゃけ、お前が喋るのが筋じゃろ。大体ワシャ細かいとこまでは知らん」
「それは承知ですが、俺の身の上を俺が語るのも恥ずかしいじゃないですか。細かいところは補足しますから、お願いします」
「んー、この話は長くなるけぇ、たいぎぃのぉ…」
「俺にだってそのくらいして下さってもいいでしょうに。あいつには簡単にプリンを」
「わかった、わかった!そんかわり、この件はこれでチャラじゃぞ、いつまでもプリンプリン言われよったらかなわんけぇの!」
「ええ結構です結構です。それで充分です。どうぞお願いいたします」
「そうじゃの、ええと、何から話せばええんじゃ…、そうじゃな…、そもそもの話から始めるか」
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